緊急事態宣言が解除された6月中旬、JR高尾駅からバスに乗り吉村貴子さんのアトリエを訪ねました…
アトリエ 訪問
吉村貴子(ヨシムラタカコ)さん

☆吉村さんの…
好きな作家:
高校2年生の夏、箱根彫刻の森美術館の入り口近くで「横たわる像:アーチ状の足」というヘンリー・ムーア作品に出会いました。そのフォルムは、おおらかに「おいで、おいで」と誘っているようです。もしそこが「立ち入り禁止」の芝生の中でなかったら、うっかり駆け寄って抱きついて、夏の陽射しをたっぷり蓄えたブロンズに「アチチチッ!」と跳ね返されていたでしょう。その頃から作る人、作品、見る人が、溶けあうような世界を夢見ていたのだと思います。
奈良、飛鳥などの巨大石造物も大好きです。特に、道ばたで、いきなりドカンと出迎えてくれる「亀石」。カエルに見えるけれど「亀石」(笑)。今はすっかり整備されていますが、私が学生時代にはじめて出会った時は、あぜ道の脇でただ微笑んでいました。穏やかな表情の亀石ですが、ひとたびクルリと西を向くと、村が大洪水になるという伝承があります。時に、その霊力が恐れられる。しかし、チャーミングな表情は癒やしを、とてつもない大きさと柔らかなフォルムは、生きるエネルギーを与えてくれる……
。ただし、いつもは路傍で、ただ微笑んでいて、気にとめられることもない。造形物として最高の存在のしかたのように思えてならないのです。このような造形物との向き合い方は、そのまま私の「もの作り」の基本になっています。大きなモニュメントを作る時も、机の上の小さなオブジェを作る時も、全く同じです。
こだわり:
大学では石彫を専攻し、そのまま続けていますが、他にブロンズやガラスでも作品を制作します。最近は、石彫と同じくらいキャストガラスの作品を作る機会が増えました。私のガラス制作には、師匠が存在しません。自然発生的に生まれた技法なのです。硬い黒御影石を手彫りするのがとても好きです。ノミ打ちの痕跡をノミ底と呼びます。ノミ底同士をつないでいくと、フォルムの輪郭が見えます。ノミ底とノミ底の間に少しずつ残った石のふくらみのてっぺんをつないでいくと、ノミ底の輪郭より少し外側に、もうひとつ輪郭が見えて来ます。輪郭が2つあることによって、硬質な御影石にフワフワとした、やわらかで透明感のある領域が生まれます。この雲のようにやわらかな感触をさらに求めて、大理石を彫るようになりました。大理石の質感ならば、ノミ打ちでなく、磨き仕上げをしても、同じ効果を得ることができます。それをもっと、もっと突き詰めて、軟らかく、フワフワに、雲のように……
、で、結局行き着いたのが、キャストガラスです。粘土で作った原型を耐火石膏で型抜きして、ガラスのかたまりを詰めて窯で焼成します。型を壊して、中のガラスを削って磨く……
。モデリング(盛り上げる工程)を経てカービング(削る工程)を行うので、作業はより複雑ですが、私の求める感覚に、この方法はフィットしているように思えます。
石にしても、ガラスにしても、わざわざ硬い素材を選んでは、軟らかく、曖昧な境界を作ろうとするのは、あまのじゃくかもしれません。でも、このギャップが、どうしても必要なのです。「繋がっているようで離れている」「有るような、無いような……
」「向こう側が見えるような、見えないような……
」、これは、子どもの頃からずっと好きな、コーラスにも似ています。メロディーよりも、ハモるパートを歌う時、自分の存在が音楽の中に一体となって溶け込んでいくのを感じることができます。その感覚を立体作品で表現しようとしているのだと思います。高2の夏、ヘンリー・ムーアの作品と一体になりたかった時以来(笑)。
(文 吉村貴子/写真 関 幸貴)
プロフィール

1962年 兵庫県宝塚市生まれ
1986年 東京造形大学造形学部美術学科Ⅱ類卒業
1988年 同校研究生修了
2016年 京都造形芸術大学大学院研究科修了
現在 文教大学教育学部非常勤講師
◇展覧会・受賞歴の詳細は、
吉村貴子さんHP → https://userweb.ejnet.ne.jp/yytakako
◇吉村貴子さん個展情報
2020年12月 ギャルリーワッツで開催予定
Galerie wa2 →
https://www.wa2.jp/
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