2018年1月末から始まる「新春あらたま展」に参加する住谷重光さんを大磯のアトリエに訪ね、午後の光を受けながらインタビューを行いました!
アトリエ 訪問
住谷重光(すみたにしげみつ)さん
☆住谷重光さんの…
好きな作家 :
洋画、日本画は関係なく、ヨーロッパならセザンヌ、ゴッホ、ド・スタール、古い人だとレオナルド・ダ・ビィンチ。日本ならダ・ビィンチと同世代の雪舟、明治時代の菱田春草、そしてなんと言っても坂本繁二郎さんが好きです。
実は、高校1年の時に大阪の美術館で見た坂本繁二郎さんの「柿の絵」との出会いが、画家への道を決定付けたのです。
それは葉をつけたままの柿が3ケ程描かれている地味な絵でしたが、何故か見入ってしまい、見るほどに味わいが増し、それまでの綺麗で装飾的な絵が、絵だと考えていた私は衝撃を受け、帰宅後も強烈な印象が消えず、翌週、翌々週、その1枚を見るためだけに美術館に通いました。
およそ半世紀前のことですが、それまでに見たことのなかった作者のリアリティに惹かれ、気がついたらハマってしまったのです。
その後、私は芸大に進み、若い頃は自我肥大や時代の影響もあって現代アートにも手を染めましたが、心の中にはいつも坂本繁二郎さんが存在していたと思います。
坂本作品を見ていて考えるのは制作に対する真摯な姿勢です。
坂本さんは、自然を対象に描くことが多かったのですが、どうしても自己表現に走っているとは思えず、自分の存在は消去してもかまわず、「自然をどう描くか」「自分がなくなっても自然がある」そんな感じで筆を走らせていたのではないのでしょうか。
回顧展で見た87歳で亡くなる1年程前に描いた「月光」は本当に素晴らしく、作品の中には宇宙をはじめとした森羅万象、光も空気も確かにあり、坂本さんと対象の境界が溶けてしまっているようで、理屈なく感動しました。
きっと、あるがままの姿を描く心が作品にこもっているのだと思います。
考えれば、魅力的な作品を描き続けたセザンヌもゴッホも坂本繁二郎と同じ心境で筆をとっていたのかもしれませんね。
こだわり :
坂本繁二郎さんの影響もあり描くのは「自然」です。
そして、私の絵は自己表現ではなく、自分を捨てて見えてくるモノを目指しています。
若い頃は「自分が世界だ!」と考えるぐらい傲慢でしたが、今では「禅」の考えに近く、50代半ばそうした思いに至りました。
だから最近、道元やお釈迦様の本を読んでいると、以前よりも理解度が高くなった気がしますね。
実際に制作面でこだわっているのは、具象、抽象を問わず必ず現場に赴き描く「現場主義」を貫いています。
海の夕景は別にして光が美しい午前中は現場で具象を描きますが、午後になるとアトリエで抽象に挑みます。
例えば、油絵も現場で描き、アトリエに持ち帰り手直しをして再び現場へ、そんな感じです。
とにかく対象と繋がっているのが大事、頭は交通整理だけ、しっかりと見て一度体を通して描きます。
でも、これは新しいことではなく、進歩するものではないのかもしれません。
だって、何万年前に描かれたラスコーの壁画を見ても人類の最初から抽象と具象があるわけで、それが我々ホモ・サピエンスの宿命なのかもしれません。
そして、私の好みのモチーフは水、今は海とか滝です。季節は春の前、芽吹きの頃が良いですね。
そうした現場で描くのに重要なのは立ち位置、近景を意識し、見る人の立ち位置を考えながら作品を描いています。
今の好きな場所はアトリエから歩いて10分程のところにある花水川の橋の下、間もなくそこにも素敵な季節が到来します…